EUに関する国民投票について(インタビュー1)

コペンハーゲン大学の2年生、社会民主党のユース団体で活動するユリア・フルリック(Julie Frølich)さんに国民投票についてのインタビューをさせてもらいました。「町でも国民投票のポスターを見るようになってきたね」と話しかけると、「これでも少ない方だと思うよ。今年の夏の選挙でたくさん費用を使ってしまって、どの政党もお金がないの。」と教えてくれました。

国民投票の概要や歴史的な背景については別記事で掲載しておりますのでご参照ください。

以下会話形式で記述いたします。(A:宮崎、J:Julie)

 

A: 国民投票を行うことに対してどう思っていますか?

J: 国民投票を行うことによって国民の間で議論が起こっていることはとても良いことだし、いいタイミングだと思います。私としては、賛成が勝つことがデンマークのためになると思います。

 

A: 投票の結果、賛成が勝った場合にはどうなると思いますか?また、反対が勝った場合はどうなるとおもいますか?

J: 賛成多数によって、デンマークはEUの司法内務協力や欧州刑事警察機構(ユーロポール)に参加することができるようになります。デンマークの警察は、EUとともにテロなどの脅威に対抗することができるようになります。反対に、もし否決された場合は、デンマークはそれらの一部に参加するために各加盟国ひとつひとつと別の条約を結ばなくてはなりません。その条約を結ぶことは難しいですし、結べたとしても何年も先の話になると思いますので、今回の国民投票が可決されることがデンマークの安全にとって重要なのです。

 

A: 今回の国民投票で何が争点となっているのでしょうか。

J: 何がデンマークにとって脅威となるか、という点だと思います。賛成派は、警察がEUと協力しないことによりテロや犯罪などを防げない危険性を指摘しています。一方、反対派はEUとの協力を進めればデンマーク自身の決定権限が狭まり主権が侵害されることになる危険性を指摘しています。二つの議論は相手の立場によっておこる危険に対する不安を煽っておりあまりかみ合っていないように思います。 ただ私としては、賛成の理由は二つあります。一つは、デンマークは小さな国なので、EUとともに行動したほうが難民問題やテロなど一国では解決できない問題にも取り組めるようになります。二つ目は、少なくとも交渉の場に参加しなければデンマークの主張をすることもできないので、まずは参加するということが何より大切だと思います。EUの姿勢がデンマークと異なる場合も、交渉の場にいれば反対できますが、不参加の場合でも多かれ少なかれEUの影響を全く受けないことはありえないので、参加する方がデンマークは安全に関する自分の意思を反映できると思います。

 

A: 現在のデンマークとEUの関係をどう思いますか?また、どうなるべきだと考えますか?

J: 今はEUに対する不安感が蔓延していると思います。たしかに、市民にとってEUは遠いですし、完全に民主的であるとは言えません。それでも、私はEUのファンなのでもっとEUとデンマークの関係が近くなることを望んでいます。なぜなら、繰り返しになりますがデンマークは小さな国なのでデンマークだけでやるよりもEUとともに行動する方ができることがたくさんあります。ヘレ・トーニング・シュミット前首相はEUと大変良い関係を築いていました。メルケル首相など他国の首相・大統領との強い関係がありました。しかし、現在のラース・ルッケ・ラスムセン首相はEUの関係の外側にいるので、残念に思っています。

私は、人々はEUが私たちにとって何をもたらしてくれたかを忘れがちだと思います。世界大戦後、EUは同じ大陸の国々がお互いに関心を持ち協力し合うことで、平和を維持し様々な問題にともに取り組むことを可能にしました。同じ大陸にいる以上全く影響を受けないことはありえません。もちろん、もっと民主的に市民に近い存在へと変えていくことは必要だと思いますが、EUなしに自国の政治のみの利益を追求することは結局デンマークにとって不利益だと思います。

 

A: なぜデンマークで反EUの雰囲気が蔓延してるのだと思いますか?また、なぜ市民と政治家にEUに対する考え方でギャップがあると思いますか?

J: 市民がEUを理解することが難しいからだと思います。メディアもEUの悪い面を報道していい部分を伝えておらず客観的な視点を提供する役割を果たせていません。例えば、先日大気汚染に関するEUの法律ができましたが、デンマークにとっても大きな意味があるものであったにもかかわらずあまり報道されていませんでした。それに対して、移民問題の不安を煽る記事は連日かかれています。また、政治家が市民の不安をくみ取れていない、真剣に向き合ってこなかったことも問題です。例えばデンマークでは、反EU、反移民を掲げるデンマーク国民党が夏の選挙で大躍進しました。漠然とした移民やEUに対してこれからどうなるのかがわからない不安がある中で、ほかのどの政党もその不安に対する解決策や対応を掲げない中で、唯一その不安を争点にした政党があれば、怖いことではありますが、それに流れされていくことは想像できます。

 

A: デンマーク、EU内で、民主主義自体の問題が大きくなっているのかもしれないですね。

J: その通りだと思います。欧州市民イニシアチブといって加盟国7か国から計100万人以上の署名を集めることによって欧州委員会に対して立法を提案できる制度がありますが、十分に活用されているとは言えません。今回の国民投票で賛成派が勝ちEUとの協力を進めていくことになっていくとしても、民主主義の問題を早急に解決していくことが必要だと思います。

 

A: ありがとうございました。

以上
Julieいわく、政治学科の学生では今回の国民投票に関しては賛成派がほとんどであるようです。賛成多数によってEUとの司法内務協力を進めることになったとしても、その後EUと各国の距離をどのように縮めていくのかを考えることが重要だと思いました。今後も、ほかの学生反対派の意見も聞きながら何が争点となっているのかを見ていきたいと思います。