デンマークの都市計画の紹介/古賀元也 大学教員・博士(工学)

 皆さん,初めまして。私は20164月から1年間,コペンハーゲン大学で客員研究員として都市計画の研究に取り組んでいます。このエッセーでは私のデンマーク生活,研究活動を通じて,デンマークの都市や建築について執筆したいと思います。あまり聞きなれない言葉かもしれませんが,都市計画とは子供から大人,お年寄り,健常者,障がい者といったすべての主体が都市空間の中で「住む」,「働く」,「休む(憩う,遊ぶ)」,「動く」の活動が安全に,快適にできるように計画,運営するものです。そのジャンルは都市の再開発,都市交通,景観デザイン,人口問題,地球環境問題,そして法律など幅広く,対象とするエリアは中心市街地から郊外,中山間地域まであります。

 今回はデンマークの基礎情報について紹介します。デンマークは北欧諸国のひとつで,スカンジナビア3ヶ国(スウェーデン,ノルウェー)の中で最も小さく,面積はおよそ4.3万㎢です。これは九州とほぼ同じ大きさですが人口は九州のおよそ半分の566万人です(2015年)。人口動向は日本と異なり増加傾向にあります(日本は2008年より減少に転じました)。増加傾向の要因は様々ですが,そのひとつにはデンマーク政府による保育・教育支援が日本に比べて充実していて,子育てしやすい環境があると思います。ちなみにデンマーク人であれば大学の学費も無料です。大学は9校あり(すべて国立大学),学部3年,修士課程2年,博士課程3年です(日本は423年)。

 公用語はデンマーク語です。多くのデンマークの人たちは英語が堪能なのでデンマーク語ができなくても日常生活には困りません。ただしスーパーマーケットでの商品名,説明書きはデンマーク語なのである程度の単語は知っておいた方がいいです。私が初めて大学に来て,教授に施設を案内して頂いたとき,シャワールームのプレート表記がデンマーク語だったため,男性と女性を間違えないようにね!と冗談を言われました。

 デンマークの地方制度は,以前は国,県(アムト),そして基礎自治体である市(コムーネ)の三層構造でしたが,2007年以降は13の県を廃止し,5つの州(レギオン)が新たに設置されました。ちなみに日本にも県を廃止して州にしようという道州制の構想があります。

 コペンハーゲン市について,まず「住む」に焦点をあてると,人口は約55万人(面積88.25㎢),慢性的なアパート不足で,アパートを見つけるのはとても大変です。家賃相場は高いので留学生はルームシェアが多いようですが,留学してもアパートが見つからないという学生もたくさんいました。

 次に「動く」に焦点をあてると,公共交通は電車,地下鉄(メトロ),バスがあります。公共交通の利便性は高く,メトロは現在2つのラインがありますが2018年には環状線もでき,4つのラインになることが計画されています。まちなかへのアクセスは鉄道とメトロがあるノアポート駅(Nørreport)の利用をおすすめします。またコペンハーゲンの特徴として,多くの住民が自転車を利用しています。デンマークでは政府が自転車の利用促進に力をいれており,一方通行の自転車専用道路が車道の両側に整備されています。ここにうっかり足を踏み入れてしまうと注意されてしまいますので気を付けてください。

 最後に「休む(憩う,遊ぶ)」に焦点をあてると,デンマークのまちなかは賑わいの中に,水辺や緑に囲まれた憩いの空間が点在しています。ノアポート駅から北西に向かうと,イスラエル広場がありその北側は屋内外の市場で買い物・食事を楽しむ空間,その隣にはデンマークの大手設計事務所COBEが手掛けた公共空間があり,休日には子供たちがバスケットボールやサッカー,ローラースケートを楽しむ姿が見られます。そして南側には雄大な緑と水辺が広がるエアステッズ公園があり,天気がいい日は多くの住民が芝に寝転がり日光浴を楽しみます。デンマークは年中寒いイメージがあるかもしれませんが,デンマークの日差しはとても強く,夏は20度を超えることもあります

 ノアポート駅から南東に向かうと,歩行者専用道路のショッピングストリートが展開されカフェ,レストラン,ファッション,雑貨など様々な店舗が並んでいます。そしてその先には建築家ヤン・ゲール(Jan Gehl)が手掛けた歩行空間ストロイエ(Strøget)が東西に走っています。ストロイエから西に歩くと市庁舎広場があり開放的な空間となっています。コペンハーゲン市庁舎の塔の高さは105.6mで,この辺りでは最も高く,中心市街地のランドマークとなっています。天気のいい日はぜひ市庁舎からまちを見下ろしてみてください。コペンハーゲンの素敵なまちなみを感じることができるでしょう。

 今回は,コペンハーゲンのまちなかについて「住む」,「動く」,「休む(憩う,遊ぶ)」,の3つの視点で見てみました。


参考文献:

日本の統計:総務省統計局,2016

アジア各国の国土政策に係る具体的施策分析等に関する調査:国土交通省国土政策局,2009

DK Eyewitness Travel Guide Denmark: COLLECTIF, 2015

デンマークについて:東海大学ヨーロッパ学術センター,2015

デンマークのユーザー・テモクラシー:朝野賢司,生田京子,西英子,他2名,2005