ダイバーシティを促進し世界で活躍:アウトソーシングサービス企業 ISS

北欧の国デンマークは、よく高福祉社会が注目されるが、それを支えるのは強い経済力である。IMD発表の国
際競争力指数は8位(日本27位、2015年)。また、世銀が行ったビジネス環境ランキングにおいても3位である(同34位、2015年)。豊かさの指標として引用される国民一人当たりのGDPは、日本25位に対し、デンマークは世界8位を誇る(IMF発表、2015年)。確かに、北海油田による天然資源を持つことや人口が少ないことが、実態以上にこの数値を引き上げているかもしれない。しかし、2000年代前半まで日本とデンマークは同じようなGDP数値で推移してきたことを鑑みれば、現在の大きく空いた溝には何かの要因があるといえる。

 

経済の成長において、企業の成長は欠かせない。つまりデンマークの経済成長には、数々のデンマーク企業の成長もあったはずである。デンマーク企業の好調の要因はどこにあるのか。今後、複数回に渡り、デンマークを代表し、世界で活躍するデンマーク企業について調査し、日本企業にはない強みを探ろうと思う。今回は、アウトソーシングサービス企業ISSについて報告する。

 

〈ISSの国際戦略:多様性〉

ISSが展開するアウトソーシングサービスとは、クリーニング・ケータリング・セキュリティ・サポートサービスなど、企業のファシリティに関わる幅広い事業分野を指す。ISSは、これらをファシリティサービスと位置づけ、世界77カ国に進出し、51万人の従業員、総収益は約1兆3300億円(2014年)を計上している。デンマークにおいては、マースク(A.P. Møller Mærsk, 海運企業でコンテナ船や石油船、バルク船などを保有)とダンスク・バンク(Danske Bank, 金融)に次ぐ国内3位の売上規模を誇る。2013,2014年にはアウトソーシング国際協会により総合評価で1位に選ばれた 。

 

ISSが掲げる企業戦略の1つに、ダイバーシティ化がある。これは、従業員の国籍や年齢の多様性、男女差の軽減、積極的な移民や障害者、前科者などの社会的弱者の雇用により、文字通りに多様性を促進しようとするものである。これにより、企業のグローバル市場での順応性や競争力の確保、イノベーションの向上、異文化への適応力などを狙っている。ISSとプライスウォーターハウス・クーパーズらによる独自調査で、多様性のある従業員チームは多様性のないチームと比べ、売上が3.7%増、従業員の病欠者の減少、高い従業員満足度が達成されるという結果が示され、ダイバーシティ化の正当性が証明されている。このダイバーシティ化により、1万1千人の従業員のうち4,450人が移民、350人が障害者で、半数のマネージャーが女性(デンマーク国内の数値)という従業員の多様性を実現している (2010年)。この戦略は2007年から重点的に進められているが、ISSの総収益は2007年比で2014年まで16%と決して少なくない伸びを見せた。このISSのダイバーシティへの取り組みは、他のデンマーク企業にも波及しているという。

 

〈所見〉

このように積極的にダイバーシティを進める動きは日本であっただろうか。先日、日本政府が、働く女性の支援やワークライフバランスの改善に取り組む企業を、公共事業の入札で優遇することがニュースになった。来たる4月から施行される女性活躍推進法や、次世代育成支援対策推進法に基づいた基準が適応される。このニュースから思うに、日本の多様化促進への対策は、法律に縛られたものや政府の優遇措置などといったインセンティブから生まれるもので、ISSのように純粋に企業戦略の一部として多様性を目指したものと本質的な違いが感じられる。これは日本社会が真の意味で多様化への理解が不足しているといえないだろうか。

 

企業内の多様化といっても、大きな社会構造が複雑に絡み容易に促進できるものではないことは明白だ。多様化を進めるにあたり、これまでの日本企業や社会、そして政府の苦悩があったことは想像できる。しかし、多くの日本企業が、失われた10年や20年と呼ばれるように深刻な停滞期から抜け出せない一方、国際的にオープンな経済・社会を形成したデンマークで、多様性を実現し成長したISSの姿がそこにはある。日本の企業や政府が、真の意味で多様化の必要性を認識し、多様性ある社会を実現することは、日本企業ひいては日本経済復活の1つの糸口になるかもしれない。

 

[参考資料]

・〔1〕http://www.dk.issworld.com/ 2016年1月28日参照

・〔2〕http://www.imd.org/wcc/news-wcy-ranking/ 2016年1月28日参照

・〔3〕http://www.doingbusiness.org/rankings 2016年1月28日参照

・〔4〕http://statisticstimes.com/economy/projected-world-gdp-capita-ranking.php 2016年1月28日参照