ボランティア活動を通して学んだこと

7月の後半から八月の後半まで約一か月、長期休暇を利用してデンマークのステンズバックという地域でボランティアをした。春セメスターの授業が6月で終わり、約3か月の長期休暇を、日本や留学先の大学生活ではできないようなことを経験し有意義なものにしたいと考え、ボランティアをすることにした。

ボランティアをしていた地域はユトランド半島の南、ドイツとの国境に近くに位置し、留学生活で普段住んでいるコペンハーゲンとは全く違う、正直に言って超がつくほどの田舎であった。周りには牧場や森が広がり、一番近くのスーパーまでは歩いて40分はかかるほどである。ボランティアをしていた施設は、ヨガやピラティス等をしながらベジタリアン生活を通して心と体の健康を目指すというコンセプトのもと、毎週20人ほどのゲストを受け入れ、ゲストのために食事の準備をしたり掃除をするのが主な仕事であった。この施設を選んだ理由は、私のほかにボランティアが多くいること、世界中からボランティアが集まっていたこと、ボランティア同士のアクティビティが活発で自然の中で暮らせること、ベジタリアン生活を経験して見たかったことであった。ボランティアは私のほかに15人ほどいて、デンマークのほかに、スペイン・オランダ・レバノン・メキシコ等世界中から集まってきていた。一日約5時間の仕事でおおまかに朝・昼・晩の三つのシフトに分かれて働いた。さらに、仕事が終わった後や夜にはみんなで集まってゲームをしたり、映画を見たり、パーティをしたりと交流が活発であった。

この施設では毎朝ボランティアが全員集合してミーティングをした後、天気が良い日は外で、雨や天気が悪いときは体育館の中で、皆で輪になって手をつなぎ、一人ずつその日の気分(幸せ、悲しい、良く眠れた、疲れている等)を言うのが日課であった。はじめはこの習慣に驚きと戸惑いを感じ、何を話せばよいのかわからなかった。自分の本当の気持ちに向き合おうとはせずに、当たり障りのないことや皆が聞いて無難だと思うこと(よく眠れた、今日も仕事を頑張りたい等)を話していた。それはおそらく、自分の本当の気持ちを話したら周りがどう思うかを気にしていて、自分の気持ちに向き合うことを避けていたからだと思う。思えば私は今までの人生で、他人の気持ちばかりを気にして我慢した結果、自分の本当の気持ちがわからなくなってしまうことがあり、それが悩みでもあった。たとえば、数人で分担して作業をするときに、自分が何をしたいかよりも他の人が何をしたいかを先に聞いて、自分がやりたくない役割でも引き受けてしまう。最初はその役割をこなすものの次第にそれが嫌になってきた場合でも、自分の気持ちを言ったらどう思われるか心配したり、自分が我慢することによって周りが上手くいくのなら自分の気持ちは言わなくても良いだろうと自分の中で完結させてしまったり、また時には周りはどうして気づいて交代しようとしてくれないのだろうかと周りのせいにして一人で考え込んでしまうときもあった。覚えている限りかなり幼い時からこの癖が体に染みついていたので、大人になるにつれて自分が本当は何がしたいのか自分の気持ちがわからなくなってしまうことが多々あった。しかし約一か月間毎朝この習慣を続けていくうちに、次第に自分の気持ちを他人の前で素直に表現し、言葉にできるようになった。それは、自分の気持ちに正直に向き合い自分の気持ちを尊重することは大切だということを学んだからである。今までは自分の気持ちを正直に言って周りに心配をかけてしまったり気を遣わせてしまうのは悪いことだと思っていたが、自分が何も発信しないで一人で抱え込むことによって我慢したり嫌な気持ちになることが、逆に他人に気を遣わせたり、周りにその悪い雰囲気が伝わってしまうということに気づいた。それまでは、「自分の視点から」他人の気持ちに配慮して気を遣うということしかできていなかったのが、今では「他人の視点から」その人の気持ちに寄り添うことができるようになったと感じる。そのことに気づき、自分の気持ちに本当の意味で向き合い、素直にそれに従うことができるようになるのは私にとって簡単ではなかったが、周りのボランティアの人が支えてくれたおかげで自分の凝り固まった考え方を変えることができた。自分が今まで悩んでいたことを話すとみんな親身になって相談に乗ってくれ、アドバイスをくれた。こんなことで悩むのは恥ずかしい、今更正直に言う必要もないと思っていたのが、みんなが私のありのままの姿で受け入れてくれて、自分が一番大切なんだよということを教えてくれたおかげで、正直な自分を表現することに抵抗を感じなくなった。

このボランティアの経験では、新しい視点を得て、何よりも自分自身がさらに成長できたと感じられた。素晴らしい人たちと出会うことができて、彼らの良いところをたくさん吸収できたのではないかと感じている。たくさん相談にのってもらった中で一番印象に残っているのは、何か選択をするときに自分が何をしたいのか、本当の気持ちがわからなくなったときに、自分に問いかけるべきことがあるということ。それは二つあって、まず、なぜ自分はそれをしたいのか、そして次にそれをしたら自分はどう感じるのかということである。その時に注意するのは、「こうするべき」や「こうしたら他人が喜ぶから」等、自分の気持ちではないことは答えにはしてはいけない。普段からこれが自然にできている人にとってはわざわざ考えなくても済むようなものであると思うが、私にとってはこれを自然にできるようにするには練習が必要であった。しかしその習慣をつけることによって自分の思考方法が変わって、今までとは違った視点を持って物事を捉えられるようになり、些細な事でも我慢することなく自分に正直に行動できるようになった。ボランティア活動では多くの出会いと新しい発見があり、自分の成長へとつながる価値あるものとなった。