【企業インタビュー:アウトソーシング企業 ISS】 企業が多様性を促進させる訳とは

デンマーク発のアウトソーシング企業であるISSは、企業戦略として積極的にダイバーシティを促進している(前回記事を参考)。この取り組みは、女性の社会進出が進み、また移民との融合を模索するデンマーク社会の縮図のように感じられる。今回は、ダイバーシティ化についてISSデンマークにインタビューを行った内容を基に、企業の多様性について考察する。インタビューは、2016年、2月26日に、コペンハーゲンにて、ISSデンマークの広報担当アンネ・アンカー氏に行った。

 

【インタビュー】

なぜISSデンマークはダイバーシティ化を促進しているのか

 

ビジネスと社会的責任の両面があります。ISSの独自調査で、ダイバーシティは会社の収益力に資することがわかっています。売上が3.7%増することや、病欠者の減少で業務効率が向上することなどです。それは単に従業員だけでなく、マネジメント層に対しても言えることが分かりました。そのため、ビジネスの観点から多様性の促進を進めています。また、企業の果たすべき社会的責任の一部として、ダイバーシティを促進する意味もあります。ISSは規模の大きな会社で、デンマーク社会に対する影響力があります。移民や、精神や身体面で社会的な弱者を雇用し、労働市場に組み入れることで、社会的な責任を果たし、同時に多様性が促進されました。これは政府が推し進めるデンマークの労働市場政策フレキシキュリティとも関係しています。

 

社内では、年齢・性別・民族だけでなく、勤続年数・被教育年数などを含めた幅広い分野でダイバーシティ化を進めています。従業員を雇用する際、性別・民族・年齢・弱者という観点ではなく、適格性を判断します。求職者には、「何をしたいのか」、「どのようなスキルで会社に貢献するのか」を問います。これは純粋に会社に何をもたらすのかを問うためで、このISSで実施されているダイバーシティの促進は、ビジネスに直結しています。結果としてですが、ISSは広く多様性ある会社だと認知され、更に多様な人材を集めることに成功しているのです。

 

ダイバーシティの促進がどのようなビジネス戦略と結びついているのか

 

幾つかあります。まず、プライドがより持てるようになったこと。ISSは2007年コペンハーゲン移民統合賞(The city of Copenhagen integration award in 2007)や2009年移民統合雇用における内閣賞(The ministry for Integration’s employment award in 2009)、2010年デンマーク多様性人権機関によるワーキングライフ賞(The Danish Institution of Human Right’s diversity in working life award in 2010)など多くの賞を受賞し、外部からダイバーシティ化の取り組みが評価されてきました。これにより、従業員の会社に対する誇りや忠誠心が養われ、従業員は我々の顧客に対しプライドを持って向き合うことができています。次に、チームとして一体感が増し、従業員の確保に役立ちます。ダイバーシティの促進に際し、定期調査の言語を多言語対応させたことや、Eラーニングによる社内教育プログラムを文字ではなくイメージビデオにして視覚化するなどを行いました。これにより、チーム内で働く従業員が個々に多様性を尊重されるようになりました。結果、チームとしての一体感が増加し、従業員の確保に繋がります。3つ目に、透明性の向上があります。多様性ある職場では、不文律の社内ルールは機能しません。ルール・業務手順・昇進などの透明性が要求されます。そのためISSは明確なマネジメントシステムと就業目標を設定しています。最後に、多様性は幅広いサービスの適応性に有効です。我々は”人が寄り添うサービス(Service With A Human Touch)”を掛け声にサービスの強化を追及してきました。多様性の促進がユニークで人の心に届くサービスに繋がると考えています。ISSの業務は人が直接行うサービスを提供しているため、人材が最も大事なリソースだと考えています。

 

[所見]

ISSにおける多様性の促進は、手段でもあり目的でもある。ビジネスのためのダイバーシティ化であり、社会的責任を果たすためのダイバーシティ化である。この両面においてダイバーシティ化が正当化されているのだが、特筆すべきは、ダイバーシティ化に当たって様々なプラス効果が波及していることだ。上記のように、ダイバーシティ化に対応するための定期調査の多言語化が、個々の多様性の尊重に繋がり、従業員の維持につながること。同じく、多様性に対応するためのルールの透明化が、企業全体の透明性を向上させること、などがある。一般的に、企業内のダイバーシティ化というと、具体的にビジネス面での効果が目に見えず、実施するインセンティブがなかなか見当たらないように思う。しかし、ISSにおける様々なプラス効果を考えれば、ダイバーシティ化は潜在的にビジネス戦略になり得る可能性を含んでいるのではないか。
様々な場面で問われるようになった”多様性”。企業内だけの話ではない。世界中で移民が増え、移民受け入れ国が直面する表層的な人種の多様性、LGBTのような個人の内面の性質まで含めた深層の部分における多様性などがある。世界の豊かさや貧しさ、グローバル化などから影響を受け、問われるようになった”多様性”。企業だけでなく、一人一人の生活レベルで多様性を今一度捉える必要がある、と感じたことを最後に記したい。