ミッケラー、イヤマへのインタビューから感じとれること

近年、デンマークと日本のビジネス交流は今まで以上に進展を見せている印象を受ける。本エッセイではポップな話題として、ミッケラーとイヤマの事例をとりあげたい。

2008年にコペンハーゲンで生まれた地ビールメーカー、ミッケラーは、今年初めにビール・バー「ミッケラー東京」を渋谷にオープンした。オープン時には店前に北欧ファンやビールファンが長蛇の列を成した。同社は今月5日に コペンハーゲンにラーメン屋をオープンし、初日には日本ファンやビールファンが整理券の争奪戦を行った。

イヤマはデンマークで最も歴史の深いスーパーマーケットだが、黄色髪のイメージキャラクター「イヤマちゃん」が日本人女性のカワイイ中枢を刺激しているらしく、日本国内での認知度が年々高まっている。先月中旬にはイヤマちゃんのロゴマーク入り商品と日本に向けて開発された新商品の販売が伊勢丹にて開始され、黄色髪の少女は黒髪の人々からの黄色い声援をよりいっそう浴びているようである。

日本とデンマークが繋がるビジネスは多岐にわたるが、今回の様なわかりやすい話題の連発は毎月起こることではない。すかさず2社のCEOにそれぞれインタビューを行い、共通項の抽出を試みた。

 

ミッケラーへのインタビュー記事はこちら

イヤマへのインタビュー記事はこちら

 

共通点と相違点とのバランス

「日本のデザインと北欧のデザインには素材の選定やシンプリシティなど多くの共通点がある」という話は、日本と北欧が繋がろうとする際に使いまわされる典型である。文化差を打ち破るこの突破口からビジネスを拡大させるようで、今回のインタビューでもそれぞれのCEOからこのフレーズを聞くこととなった。

イヤマCEOのイェスパー氏は、異国でビジネスをするための重要要素のうちの1つとして商品に絶対の自信があることをまず挙げた。プロダクトデザインそのものや店舗デザインについて、自分たちがいいと思うものはあちらもいいと思ってくれるだろうと確信が持てることで、ビジネスが大きく前進すると言う。消費者やユーザーにとって最も身近なハードデザインというインターフェイスの中に基本となる共通点を見いだせれば、それ以外のあらゆる相違点は心地よい刺激として消費者に伝達することができるのかもしれない。そう考えると、ミッケラーCEOのミッケル氏が、コペンハーゲンでのラーメン屋の経営方針について「徹底して日本のやり方を貫く」と断言していることにも納得がいく。つまり、ラーメンという商品だけでなく、デンマークにはない要素をひとつでも多く輸入することが心地よい刺激になることを確信しているということだ。例えば、一般的日本人にとってデンマークとスウェーデンの見分けはつかないし、日本に今も侍がいると思っているデンマーク人もいる。この「遠い国」感もハードデザインに対する共通の美的感覚があるからこそ、北欧人にとって日本は神秘的に見え日本人にとって北欧はキラキラして見えるのだと思う。

 

“ベストパートナー”の定義

ミッケル氏はハードデザインに加えて、日本人の持つ職人魂と自身の仕事への姿勢においても共通点を見出したとしている。イェスパー氏は、言語の違う2国間でビジネスをするために必要な要素の2つ目として、信頼できるパートナーを探すことを挙げている。生産、販売、輸出という縦のつながりや、コペンハーゲン、オーフス(第二都市)、東京、という横のつながりにおけるベストパートナーを探すことが重要であると言う。これだけをを聞いても特に強い印象を持たないかもしれない。ただ、このベストパートナーの選定課程を聞けば、そこから何かしらの気づきを得る人もいるのではないかと思う。

というのも、彼らはわりとパーソナルな視点からベストパートナーを選定しているようなのである。客観的な能力の優劣よりも当人との関係の深さがより大きな評価基準となることが極めて多く、これは企業規模にかかわらず共通している。

デンマークは人脈社会であるとよく言われるが、私は、ダイアローグを中心にあらゆる物事を進めるデンマーク人の国民性がここに現れているのではないかと思う。より気兼ねなく議論し合える仲間と作業したほうが最終的な成果物の質は良くなり、事業も長続きするという考え方が基本となっているようである。当然、両者ともに今回の国をまたいだチーム編成について絶対の自信を持っているわけだが、その自信の根拠を聞いてみると、いつ知り合ったから、誰に紹介されたからというような答えがまず返ってきた。このような判断基準では、もっと他にいいビジネスパートナーがいるのではないか、という疑問が生まれようがない。社会主義的な質の優劣を二の次とする姿勢がプラスに機能した結果なのかもしれない。また、イェスパー氏とのインタビューの途中で脱線して、男女不平等や女性の企業内での活用が日本が解決すべき課題となっていると説明し、企業内での女性活用の鍵を聞いてみたところ、「特にない。ちなみに今は社員の男女比は50:50だ、経営陣も男性3人、女性3人だ」という力の抜けた答えが返ってきた。民主主義的な誰しもが平等に活躍する場を保証されるべきだとする考え方が根付いている証拠なのかもしれない。人脈社会は、ジェンダーバランス問題にも有効に適応できるようである。