投稿者: 鵜飼麻未

  • インターン体験記:鵜飼麻未

    インターン体験記:鵜飼麻未

    2017年3月から12月までの約10か月間、北欧研究所でインターンとして働いた。

    インターンを始めたきっかけは、以前コペンハーゲン大学に留学し、同じくインターンを行っていた先輩に話を聞いて興味を持ったことであった。インターンを通して新しい経験をし、人脈を広げ、何よりデンマークについて深く知ることができると考えた。北欧研究所での経験は私にとって新しく刺激を与えてくれたものばかりであり、多くのことを学び、私よりもはるかに人生経験が豊富な人や幅広い分野に興味を持った人と出会う機会を与えてくれた。通常の業務は主に、企業から調査依頼を受けて行う委託調査、Facebookページでのニュース更新、デンマークの社会や文化に関して個人の興味・関心に沿って調査する個人テーマの三つに分かれた。それまでインターンをした経験がなかった私は、インターンとして働くということはどういうことかを知り、さらに調査を進める中で、文献やウェブサイトの調査方法、レポート・エッセイの書き方、デンマークの社会制度について学び、それを日本の現状と比較・検討して問題意識として捉えることもあった。またエッセイ執筆を通して、今までは文章を書くことが苦手だったが、文字に起こすことで自分の考えを整理できそれに対する理解が深まることを学んだ。

     

    様々な活動を通して一番印象に残っているのは、金唐紙のワークショップである。そこで修復師という仕事や日本の伝統工芸の現状について知った。私でも知らなかった日本の文化・技術が遠い国デンマークで注目を浴び大切に保護されている現状に驚き感銘を受けたとともに、世界に誇るべき日本の文化や伝統を、日本人を含めより多くの人に知ってもらいたいと強く感じた。そしてデンマークの文化政策・制度に加えて保護活動をする修復師についても興味を持ち、その後個人的に調査するに至った。

     

    さらに長期休みには、無理を言ってお休みを頂き、ヨーロッパ一人旅、ボランティア活動を経験する機会を頂いた。そこでは、大学での学びを通しては得ることができなかったこと、特に、自分自身の好きなこと、得意なこと、苦手なこと、長年悩みとして抱えていたことに気づき、時間をかけて向き合うことができた。

     

    北欧研究所での業務は、担当を割り当てられて取り組むものもあるがほとんどは「やりたい」と手を挙げれば、周囲のサポートを受けながら自分で時間を管理して取り組みやすい環境にある。さらに、幅広いコネクション、長年の経験や知識、ノウハウが備わった環境において、自分の興味・関心に沿ったことを調査できることはとても恵まれているし、貴重であると思う。その中で、時間をどう活用してどれだけ自分のやりたいことを実行できるかはその人次第で、限られた時間の中でも行動に移して努力したものは結果として実を結ぶことを実感した。10か月間は長いようであっという間であったが、失敗や葛藤も経験しながら行動して学んだことは、自分にとって何よりも大きな収穫となった。

     

    最後になりますが、長年の経験やノウハウを駆使して私たちに新しい体験をする機会を与えてくださり、お忙しい中時間を割いてレポートやエッセイのチェック、アドバイスをしてくださったスーパーバイザーである上司の方には感謝しかありません。そして、北欧研究所の活動を通して出会った方々、一緒にインターンとして働き、モチベーションを高く持ち楽しい時間を共有してくださった皆様、本当にありがとうございました。

  • 金唐紙ワークショップに参加して

    金唐紙ワークショップに参加して

    9月18日から20日にかけてコペンハーゲンで行われた、日本の伝統工芸「金唐紙」のワークショップに北欧研究所のお手伝いとして参加した。日本の金唐紙研究所で活動する職人の池田氏と奥様がデンマークに招待されて、デンマークで活動するアーティストや学芸員、修復師の方々、一般人に向けて、実際に金唐紙制作の作業工程が体験できるワークショップ、金唐紙の歴史についての講演を行った。

    デンマークで伝統工芸や建造物等の修復を行う修復師の団体が今から一年ほど前、コペンハーゲン中心部のKongs Nytorvのお屋敷で日本のものと見られる金唐紙の壁紙を発見した。金唐紙についてはどのように作られて西洋に技術が渡ったのか等正確な情報が得られておらず、更に知識を得たいという目的のもと今回のワークショップ実現に至った。金唐紙を制作するには、和紙に金箔を張り付けたものを竹や花がモチーフとなって彫刻されている木製の型に押し付けて、ブラシを用いてたたき、模様を紙に押し付ける。模様が浮き出てきたら最後に色をつけ、漆を塗って乾かして完成。私も初めて体験させてもらったが、特に紙に模様をつけるためにブラシでたたく工程では、長時間ブラシで叩き続けなくてはならないのと、ブラシが紙に対して垂直に当たらなければきれいに模様が浮き上がらないので、逐一確認しながら叩かなければならない点が大変であった。模様が描かれている木製の型は、新しい作品を制作する場合や修復の際に型が見つからないものや古い型で使えないものであった場合に、池田氏がご自身で彫刻するようである。今回は池田氏が日本からいくつか持参したものを使用した。

    このワークショップに参加するまで金唐紙を見たこともなく知識もなかった私にとって、遠く離れたデンマークで日本の伝統技術を守ろうと興味を持ち、保存のために活動している団体が存在すること、そして実際に作品が何百年も保存されていることに大変感銘を受けた。さらに、デンマークの修復師の活動や国を挙げた伝統芸術への支援制度の充実性に興味を持ち、日本の伝統工芸継承の現状や問題点、将来についても考えさせられることが多くあった。特に金唐紙は各工程で日本独特の和紙や漆が使われていて、例えば最初の行程で使う和紙に関しては、日本原産のものは丈夫で、木製の型に押し付ける際にも破損しないような強さを持っているが、海外のものは日本のものに比べて薄く、それほど丈夫ではない。実際に、デンマークで壁紙として使われている金唐紙の修復の際には、海外のものが付け足されている場合もあると修復師の方から伺った。デンマークの修復師の方々はその点も理解していて、日本の和紙や漆に対する知識も持ち合わせており、できるだけ日本のものを使おうとしている姿勢を感じた。日本の伝統技術が広く海外にまで伝わりより多くの人の目に触れられることは、製作者にとっても私たち日本人にとっても誇り高く喜ばしいことであると考える。しかし、正しい知識や技術が何らかの過程で伝わった先にとって都合がよく便利な形に変化されてしまったり、製作者や伝統継承者の作品に込めた想いが本来とは違う形で受け取られてしまう可能性も考えらえるかと思う。その中で、今回のように実際に技術を継承する方と修復師の方々が直接交流し、本来の技術に対する知識を深められる場を設けることは、今後伝統技術を継承していく上でとても重要な役割を果たすと感じた。また、今回の池田氏のように技術を伝える側にとっても、日本の伝統芸術という視点から見たときに、何が正しく理解されていてどのような点で誤解が生じているのか、これからの継承に関する課題や解決策を考えるといったような問題意識に繋げられると感じた。

    デンマークでは修復師を養成する学校があり、厳しい審査を通過したアートスクールの学生が伝統工芸や建築物の修復を行ったり、政府が資金を援助して国全体で芸術を継承していこうという動きがある。しかしながら日本を考えてみると、伝統工芸の後継者の人手不足や社会の関心の低さ等の問題が山積している。さらに、世界の中で見ても政府からの助成金は少額で、支援に力を入れているとは言えない。今後デンマークの修復師の活動や歴史、教育システムについて調査していく中で、日本の伝統工芸の現状、問題点への解決策とを関連付けて考察していきたいと考える。

     

  • ボランティア活動を通して学んだこと

    ボランティア活動を通して学んだこと

    7月の後半から八月の後半まで約一か月、長期休暇を利用してデンマークのステンズバックという地域でボランティアをした。春セメスターの授業が6月で終わり、約3か月の長期休暇を、日本や留学先の大学生活ではできないようなことを経験し有意義なものにしたいと考え、ボランティアをすることにした。

    ボランティアをしていた地域はユトランド半島の南、ドイツとの国境に近くに位置し、留学生活で普段住んでいるコペンハーゲンとは全く違う、正直に言って超がつくほどの田舎であった。周りには牧場や森が広がり、一番近くのスーパーまでは歩いて40分はかかるほどである。ボランティアをしていた施設は、ヨガやピラティス等をしながらベジタリアン生活を通して心と体の健康を目指すというコンセプトのもと、毎週20人ほどのゲストを受け入れ、ゲストのために食事の準備をしたり掃除をするのが主な仕事であった。この施設を選んだ理由は、私のほかにボランティアが多くいること、世界中からボランティアが集まっていたこと、ボランティア同士のアクティビティが活発で自然の中で暮らせること、ベジタリアン生活を経験して見たかったことであった。ボランティアは私のほかに15人ほどいて、デンマークのほかに、スペイン・オランダ・レバノン・メキシコ等世界中から集まってきていた。一日約5時間の仕事でおおまかに朝・昼・晩の三つのシフトに分かれて働いた。さらに、仕事が終わった後や夜にはみんなで集まってゲームをしたり、映画を見たり、パーティをしたりと交流が活発であった。

    この施設では毎朝ボランティアが全員集合してミーティングをした後、天気が良い日は外で、雨や天気が悪いときは体育館の中で、皆で輪になって手をつなぎ、一人ずつその日の気分(幸せ、悲しい、良く眠れた、疲れている等)を言うのが日課であった。はじめはこの習慣に驚きと戸惑いを感じ、何を話せばよいのかわからなかった。自分の本当の気持ちに向き合おうとはせずに、当たり障りのないことや皆が聞いて無難だと思うこと(よく眠れた、今日も仕事を頑張りたい等)を話していた。それはおそらく、自分の本当の気持ちを話したら周りがどう思うかを気にしていて、自分の気持ちに向き合うことを避けていたからだと思う。思えば私は今までの人生で、他人の気持ちばかりを気にして我慢した結果、自分の本当の気持ちがわからなくなってしまうことがあり、それが悩みでもあった。たとえば、数人で分担して作業をするときに、自分が何をしたいかよりも他の人が何をしたいかを先に聞いて、自分がやりたくない役割でも引き受けてしまう。最初はその役割をこなすものの次第にそれが嫌になってきた場合でも、自分の気持ちを言ったらどう思われるか心配したり、自分が我慢することによって周りが上手くいくのなら自分の気持ちは言わなくても良いだろうと自分の中で完結させてしまったり、また時には周りはどうして気づいて交代しようとしてくれないのだろうかと周りのせいにして一人で考え込んでしまうときもあった。覚えている限りかなり幼い時からこの癖が体に染みついていたので、大人になるにつれて自分が本当は何がしたいのか自分の気持ちがわからなくなってしまうことが多々あった。しかし約一か月間毎朝この習慣を続けていくうちに、次第に自分の気持ちを他人の前で素直に表現し、言葉にできるようになった。それは、自分の気持ちに正直に向き合い自分の気持ちを尊重することは大切だということを学んだからである。今までは自分の気持ちを正直に言って周りに心配をかけてしまったり気を遣わせてしまうのは悪いことだと思っていたが、自分が何も発信しないで一人で抱え込むことによって我慢したり嫌な気持ちになることが、逆に他人に気を遣わせたり、周りにその悪い雰囲気が伝わってしまうということに気づいた。それまでは、「自分の視点から」他人の気持ちに配慮して気を遣うということしかできていなかったのが、今では「他人の視点から」その人の気持ちに寄り添うことができるようになったと感じる。そのことに気づき、自分の気持ちに本当の意味で向き合い、素直にそれに従うことができるようになるのは私にとって簡単ではなかったが、周りのボランティアの人が支えてくれたおかげで自分の凝り固まった考え方を変えることができた。自分が今まで悩んでいたことを話すとみんな親身になって相談に乗ってくれ、アドバイスをくれた。こんなことで悩むのは恥ずかしい、今更正直に言う必要もないと思っていたのが、みんなが私のありのままの姿で受け入れてくれて、自分が一番大切なんだよということを教えてくれたおかげで、正直な自分を表現することに抵抗を感じなくなった。

    このボランティアの経験では、新しい視点を得て、何よりも自分自身がさらに成長できたと感じられた。素晴らしい人たちと出会うことができて、彼らの良いところをたくさん吸収できたのではないかと感じている。たくさん相談にのってもらった中で一番印象に残っているのは、何か選択をするときに自分が何をしたいのか、本当の気持ちがわからなくなったときに、自分に問いかけるべきことがあるということ。それは二つあって、まず、なぜ自分はそれをしたいのか、そして次にそれをしたら自分はどう感じるのかということである。その時に注意するのは、「こうするべき」や「こうしたら他人が喜ぶから」等、自分の気持ちではないことは答えにはしてはいけない。普段からこれが自然にできている人にとってはわざわざ考えなくても済むようなものであると思うが、私にとってはこれを自然にできるようにするには練習が必要であった。しかしその習慣をつけることによって自分の思考方法が変わって、今までとは違った視点を持って物事を捉えられるようになり、些細な事でも我慢することなく自分に正直に行動できるようになった。ボランティア活動では多くの出会いと新しい発見があり、自分の成長へとつながる価値あるものとなった。