Spotifyが生み出した新しい音楽産業形態

Spotifyとは、スウェーデンで生まれた音楽ストリーミング配信サービスである。現在無料会員数約6000万人、有料会員数約1500万人、配信楽曲数約3000万曲、サービス利用可能国は58か国にのぼり、世界最大手である。Spotifyの普及に伴い、世界の音楽産業は、AppleのiPod、SONYのWALKMAN等にみられる端末へのダウンロードという形態から、オンラインでのストリーミング配信という形態へ変遷していった。

 

Spotifyの台頭を受け、北米ではTidal、フランスではDeezerなど、新たな音楽ストリーミング配信サービスが世界各国で始まった。Appleも、2015年7月よりApple Musicを展開するに至っている。しかし、これだけ競合社が登場する中でなお、Spotifyは音楽ストリーミング配信において世界最大のシェアを維持している。その最も大きな要因が、無料会員サービスと有料会員サービスの並行運用である。Spotifyでは、広告表示、音質の劣化、オンライン時のみ利用可能、などの制限はあるが、無料会員でも、楽曲そのものはすべて無料かつフル再生で楽しむことができる。他の競合社では、3ヶ月間の無料お試し期間を設定しているものの、3か月以上の長期利用では有料会員にならなければサービスを利用できなくなってしまう。結果として、新たな競合社の登場などにより音楽ストリーミング配信の利用を始めた顧客は、サービスの比較の後、Spotifyの無料会員の利用を選ぶことになり、Spotifyのシェア拡大につながっている。

 

近年の音楽業界は、インターネットの普及によりグローバル化が進む一方、海賊版やYoutubeからの違法ダウンロードの蔓延により、アーティストの権利・利益が保証されなくなっている。そこでSpotifyは、アーティストの権利・利益が守られず、売上も低迷する音楽業界を活性化させるという目的のもと、無料、合法かつ高音質な音楽ストリーミング配信のサービスを展開した。無料会員への広告表示と有料会員による収入を、アーティストら権利者への支払いに充てることで、フェアで活性化した音楽産業の構築を目指している。

 

ここで、日本の音楽業界に目を向けたい。実は、Spotifyは日本でのサービス提供の開始に至っていない。この原因の一つが、少数の巨大レーベル会社が多くのアーティストと契約を結んでいる欧米とは異なり、日本では数多くの大小様々なレーベル会社が存在していることである。このため、音楽ストリーミング配信の契約を行う際、膨大な数のレーベル会社との交渉を行わなければならないのだ。さらに、日本はCDセールス額が世界一である。TSUTAYAやTOWER RECORDSを中心に、CD販売やレンタルなどのサービスが全国的に普及している。CD販売は利益率が高く、アーティストや作曲家への権利料の支払いも正当に行われる。このため、音楽ストリーミング配信に頼らずとも、日本国内の音楽産業がCD販売によって飽和していると言えるのだ。世界での音楽ストリーミング配信サービスの普及をうけ、日本でもAWAやLINE MUSICといった日本企業による音楽ストリーミング配信サービスが登場した。しかし、Spotifyに対抗した世界の競合社と同じく有料会員のみサービス展開であるほか、CD販売中心の音楽業界の中で、普及には至っていない。

 

とはいえ、Spotifyは現在日本でのサービス展開を目指し、着々と準備を進めている。Spotifyによって生み出された音楽ストリーミング配信という新たな音楽産業形態が、日本に普及する日はそう遠くないだろう。日本国内で新たに登場してきている音楽ストリーミング配信サービスは、Spotifyを参考にした無料でのサービス展開と、国内企業という利点を生かした迅速なレーベル会社とのライセンス契約によって、Spotifyに対抗しうる有力な競合社となることができるのではないだろうか。