EUに関する国民投票について(インタビュー3)上

<今回の国民投票の争点はユーロポールへの参加、ではない>

「選挙の争点:EUとデンマークの関係はどうあるべきか」(上)

社会民主党ユース(DSU)ラッセ・ラスムセン(Lasse Rasumussen)さんにインタビューをさせてもらいました。2013年に24歳の若さで社会民主党の欧州議員選挙リストの4番目の候補者となったことで注目されているユースの一人です。「今回の国民投票の最大の争点は、投票で争われていることを超えたところにあるんだ」と聞き、大変興味深く聞かせてもらいました。一時間じっくりとお話をさせてもらいましたので、「選挙の争点:EUとデンマークの関係はどうあるべきか(上)」と「国民の不安:1992年と2015年のEUとデンマーク(下)」に分けて掲載いたします。

国民投票についての概要、デンマークが4つの適用除外を獲得した歴史的な背景についても掲載してますので是非参照していただけたら嬉しいです。

以下、会話形式で記述いたします。(A: 宮崎、L: Lasse)

 

「選挙の争点:EUとデンマークの関係はどうあるべきか」(上)

A: 今回の国民投票はどちらに投票しますか。

L: もちろん賛成です。社会民主党の立場であり、ユース団体も支持しています。より多くの人に賛成と投票してもらうために、ポスターやSNSや高校でのディベートなど様々な場で呼びかけています。

 

A: 何が今回の選挙の争点なのでしょうか。

L: 一番大きな争点は、欧州刑事警察機構(ユーロポール)に参加するかしないか、ではないんです。その他の22の項目でもありません。()争点は、投票で争われているところを超えた、将来デンマークがEUと同じ政策をとっていくことを望むか望まないか、というところにあるのです。実は、ユーロポールへの参加や22の項目を承認すること自体に反対している人は少ないと思います。グローバル化が進む中で、各国の警察の協力や共通のルール作りは、治安維持、ビジネス、国際結婚など様々な面で必要とされています。反対政党はこれらが承認されることよりも一般的な話として、将来議会がEUの方針を国内に取り入れるようになっていくことを恐れているのです。

 

A: デンマークとEUの関係をどう考えますか。

L: 議会の比率を見てみると、3分の2はEUに賛成、3分の1が反対の政党です。これがデンマークの人口の中でも同じ比率であるとしたら、EUにポジティブな国民のほうが多いのだと思います。一方で、EU懐疑派の政党が議席を伸ばしているのも事実です。財政危機の後から、国民にEUの統合に対する不安、恐怖が蔓延しました。

 

A: EUは直面する課題に対処できてないと思いますか。また、EU自体が変わっていく必要があると思いますか。

L: EUはこれまで課題が出てくるたびにそれに対処するために変化してきました。財政危機の後には経済、銀行機能が強化され、気候変動が問題化した時には新たに条約を結びました。現在は移民・難民問題が大きくなってきたのでそれを解決するために今動いています。なので、課題に対処する能力がないとは言えないと思います。

これはDSUの見方でもありますが、私たちはEUを政治のプラットフォームとしてみています。各国の政治の場が議会であるように、欧州の中の政治の場としてEUがあると考えています。なので、組織自体に対して変わっていく必要は感じていませんが、中で議論されていることに対しては反対もあります。EU内では保守派政党が多数派であり、福祉や持続可能なエネルギーの充実を目指す社会民主政党の比率は大きくありません。なので、変わってほしいところは組織ではなく中で行われている政治ですね。

 

A: EUに対して国民の中で意見が割れているのは、ある問題を考えた時に統合に関して二つの矛盾した面があるからだと思います。例えば難民問題で言えば欧州の統合は自由移動により自国に流入してくるという面と、統合により協力できるからこそ解決可能になるという面がありますが、どう考えますか。

L: 難民問題はDSUは社会民主党とはちがう意見を持っています。DSUはヨーロッパで統一した受け入れ制度を作り、各国が平等に受け入れるべきだと考えています。現在は、ドイツ・スウェーデン・デンマークなど限られた国が多く受け入れているため支えきれなくなっています。高い水準の福祉制度は難民が北欧を目的地としている理由ですが、人々が働き税金を払ってこそ成り立っている制度です。平等に受け入れが分配されれば、各国が入国者への教育や福祉を保障できるかもしれません。

しかし、社会民主党はEU共通ではなくデンマークは独自の受け入れ制度を持つべきだと主張しています。EUへの懐疑的な意見が広まる有権者の反対を恐れ、社会民主党だけでなくどの政党もEUが共通の制度をとるべきとは言えません。デンマークだけでなくどの国も同じ状況です。ただ、スウェーデンはこの主張をしており、最近ではアンゲラ・メルケル首相も主張し始めました。彼女はヨーロッパ政治に大きな影響力を持っていますが他の国々続かない限り実現は難しいと思います。

 

A: どのような説明をすれば有権者からの支持を得られるようになると思いますか。

L: EUで共通の移民政策を持ち、平等な受け入れ分配制度ができることにより、デンマークに入ってくる移民・難民の数が今より減るようになることを証明することが唯一の方法だと思います。私は実際減るのではないかと思っています。

しかし、もう一つの問題は現在反EUを掲げる政党は、EUに反対すること自体がアイデンティティであるので、どのような説明がされても主張は曲げないことです。ユーロポールに参加し続けることがデンマークにとって最善であると思っていても、それがEUの機関である限り彼らは反対します。そして、他の政党も反EU政党がある限り有権者の票が逃げないようにEUに迎合する政策を声高に主張することはできません。EUを巡る問題は、ポピュリズムに直面し動けなくなっています。

国民の不安:1992年と2015年のEUとデンマーク(下)」へと続く)

 

これまでのインタビューを経て、今回の国民投票の意義が今後のデンマークとEUの関係を決定する意味を持つものだと理解するようになりました。また、政治家ではないユース団体だからこそ主張できることを聞き、政治家や民主主義の葛藤にも触れられました。デンマークでは政党ごとのユース団体があり、政治家を目指す学生だけでなく気軽に所属している人もおり政治と国民の距離の近さを感じます。政党とユースで意見が異なる部分があることにも興味深く思いました。

ぜひ「国民の不安:1992年と2015年のEUとデンマーク(下)」も読んでみてください。