日本とデンマークの留学事情 vol.1 

「留学」という世界的なトレンド

 経済のグローバル化が進む中で、国境を超える学生が世界的に急増している。OECDの統計によれば、他国の高等教育機関で学ぶ学生数は300万人(2007)から450万人(2012)と、わずか7年で1.5倍になった。「留学[1]」は、日本とデンマークにおいても政策レベルで議論されるテーマとなっている。

日本とデンマークの概況

 2013年、日本政府は成長戦略として「日本再興戦略-Japan is Back-」を閣議決定した。アベノミクスの「第三の矢」として発表されたこの戦略の中では、グローバル市場で競争力のある人材を育成するため、日本からの留学生、日本が受け入れる留学生の両方を2020年までに2倍にすることが大きな目標として掲げられている。

 

 一方、デンマークでも専門的技能を持つ若年労働者を確保するため、留学生の受け入れに積極的である。また、デンマーク人学生の留学送り出し策もあり、2020年までに高等教育を受ける学生のうち50%を留学させる計画を打ち出し、多くの大学に留学促進のための補助金を交付した。このように多くの留学促進策が打たれる中で、日本とデンマークの留学はどのような状況にあるのだろうか。

 

「学生の内向き志向」は本当か

 まず大きなトレンドとしては、学位取得のために留学[2]する学生が日本とデンマークで減少している。日本では2005年から2013年の間に学位取得留学者がほぼ半減した。デンマークでも、2011年以降は減少が続いている。この減少の理由としてよく語られるのが「学生の内向き志向」だ。日本の場合、内向き志向に関する論考はOECDの分析に依拠したものであるようだ。デンマークでも同様の意見は、メディアを中心に散見される。デンマークの新聞社Politikenによれば、デンマーク人が海外に目を向けない理由として、家族と過ごす時間を大切にする傾向を挙げている。[3]

 

 しかし、「学生の内向き志向」なるものは本当に存在するのだろうか。それを否定するデータはいくつか存在するが、その一つが、交換留学生の増加である。留学に様々な形態があるが、近年、学生の間で主流になりつつあるのが交換留学だ。大学間で協定を結び、自国の大学に在籍したまま留学できる制度で、多くの場合1年以内の短期間だ。日本では、この交換留学で海外に向かう学生が急増している。2005年から2013年の8年間で交換留学生数は2倍以上に増え、留学全体で大きな比重を占めつつある。デンマークでも同様の傾向がみられ、ここ数年で交換留学生の数は大きく増加した。

 

なぜ交換留学は人気なのか

 なぜ学位取得留学は減少し、交換留学は増加しているのだろうか。その理由は両国で異なる。日本の場合、経済的な状況が大きく関係している。日本人の世帯収入はここ数年、減少傾向にあり、日本学生支援機構の調査でも、学位取得留学者の24%が留学前に困ったこととして「資金調達」を挙げている。このように経済的な問題が、日本人の学位習得留学に大きな影響を与えると思われる。その点、交換留学は学費を留学先の学校に納める必要がなく、単位互換により既定の年数で卒業できることが多いため、経済的な負担が少ない。

 

 デンマークではどうだろうか。デンマークでは世帯収入は上昇しており、経済的な問題があるとは言えない。一つ考えられるのは、デンマークの教育環境の良さである。デンマークはGDPに対する高等教育への出資率が世界トップクラスであり、国内の大学数はわずか8校にも関わらずそのうち3校が世界大学ランキングで上位にある。一方でデンマークが加盟するEUにはエラスムス計画と呼ばれる人材交流プログラムがあり、ヨーロッパ内での交換留学が非常に盛んに行われているという現状がある。

 

 これらの理由から、デンマークではあえて海外で学位を取得するのではなく、自国の大学に籍を置きながら短期間、交換留学により海外での生活を経験するという選択肢を取る学生が増えていると思われる。

 

まとめ

 日本とデンマークの留学事情を概観してきたが、データからは必ずしも両国の学生が内向き志向に陥ってるとは言えない。両国とも交換留学に参加する学生は大きく増加しており、海外に目を向けていることが分かる。両国とも留学を志す学生への支援は手厚くなりつつあり、デンマークでは大学へ奨学金用の予算が配分され、日本でもトビタテ留学ジャパン奨学金[4]のような給付型奨学金が創設されている。日本がデンマークから学ぶべき点としては、留学への直接的な支援だけではなく、自国の教育に大きな投資を行い、高水準の環境を実現することによって、他国の学生に日本を魅力的な留学先として意識させ、結果的に日本を目指す学生を増やす戦略を取ることであろう。

 

 現在、日本では「日本再興戦略」の一環として、「スーパーグローバル大学創成支援」と呼ばれる政策を実施し、キャンパスのグローバル化や留学の促進を目指す大学に対する投資を拡大している。政策の成果が現れるにはまだ時間がかかるであろうが、日本の高等教育機関の国際化が成功すれば、日本人学生も日本にいながらにして多様な価値観に触れることができ、今後のグローバル化の進展へ容易に対応できるようになるはずだ。

 

 


[1]本稿では、高等教育における留学のみを扱う。

[2] 学士、修士取得のため海外にフルタイムで留学すること。

[3] http://politiken.dk/indland/ECE2295868/danske-unge-vil-studere-hjemme/

[4]文部科学省が2013年に設立した留学用奨学金。 http://www.tobitate.mext.go.jp/index.html