スウェーデンの物乞いは何者か ~PART1~ -ロマという民族について―

“Hej hej(スウェーデン語でこんにちはという意味)~!”

 

地面に座ってコップに入った小銭をジャラジャラ。スウェーデンの大学都市ルンドでは、スーパーなどのお店の前では必ず「彼ら」が通行人にお金をたかっている。私は社会福祉のイメージを持っていたスウェーデンに留学に来た当初こそ、彼らが目に付き対応に困っていた。だが、だんだん無視するようになっていた。

 

今回から三回に渡って私はスウェーデンで見かけるロマ(ジプシーとも呼ばれるが現在では差別用語とされる)の人々について特集したい。第一回目の今回は、スウェーデンにいる彼らの正体、スウェーデンにいる理由について触れていく。

 

 

ロマの人々とは

 

冒頭で触れた道端で通行人にお金を乞う人々は、ロマと呼ばれる少数民族である。彼らのほとんどはルーマニア(またはブルガリア)からスウェーデンに出稼ぎにやってきた。[1]2016年現在、ストックホルム等の大都市からルンドのような大学都市までスウェーデンの多くの都市にいる。それではロマとはどのような人々なのだろうか。

 

ロマの人々はヨーロッパ全域の他、中近東、アフリカ、アメリカ大陸、オーストラリアにもいる。[2]ヨーロッパ全域では最低でも620万人[3]いるとされるが自らの国を持たない。彼らは中東欧に多く存在し、その中でも突出してルーマニアに最低でも120万人[3]、またブルガリア、ハンガリーなどの東欧に多く住む。[4]彼らの話すロマニ語はヒンドゥー語やサンスクリット語と似ている点が多いため、元々インドから西へ移動してきた民族だと考えられている。[5]そして一般に彼らは黒い髪・目、浅黒い肌といった外見的特徴を持つようである。[6]かつては移動生活を行う民族であったが、現在ではその多くは一つの地に定住することを好む。安定した生活を送る者の中には自分がロマであることを隠して社会に溶け込むものもいる。[7]

 

 

ロマはなぜスウェーデンに来るのか

 

ストックホルム商科大学の佐藤吉宗氏によると、スウェーデンに来るロマの人々は2012年頃から現れ始めたようである。氏はさらに、2007年のルーマニア(とブルガリア)のEU加盟後ロマの人々もEU内を自由移動できるようになり、口コミなどによるタイムラグを経てスウェーデンでも多くみられるようになったと推測する。[8]

 

大聖堂前のロマの人

大聖堂前のロマの人

では、なぜルーマニアからのロマの人々は物乞いをしにスウェーデンにやってくるのか。それはルーマニアにおける彼らへの差別と偏見、彼らの抱える構造的な貧困が根深いからだ。そのため、よりよい生活を築くお金を稼ぎにやってくるのだ。ロマの人々の多くはルーマニアで仕事がなくゴミをあさって生活したり、基本的なヘルスケアや教育が保障されていなかったりする(参照:https://www.youtube.com/watch?v=ALdlphTYdi4)。ルーマニアだけではなく、この問題はヨーロッパ全体のものだ。ロマの人々の84パーセントは貧困線以下で生活しており、47パーセントは過去一年間に差別を受けた。[10]ハンガリーやチェコではロマがライフルなどで襲撃される事件が起き、イタリアでは政治家による「ロマは皆泥棒」などの暴言が繰り返された。[11]

 

このように、スウェーデンで物乞いをする人々、ロマはヨーロッパで最も蔑まれている民族であり、アウトサイダーとみなされているようである。彼らを取り巻く環境は、スウェーデンの問題であり、ルーマニアの問題であり、EUの問題である。

 

次回、スウェーデンとロマの人々の特集の第二回目は、スウェーデン社会の中で彼らがどのように捉えられているのかをスウェーデン人へのインタヴューを中心に推察していきたい。

 

 

 

[1] スウェーデンの今、佐藤吉宗
(http://blog.goo.ne.jp/yoshi_swe/e/bf00e2a2994a418768384ab4460a90a5)

[2] 唐澤, 2008, P.2

[3] Estimates on Roma population in European countries, Council of Europe
(http://www.coe.int/en/web/portal/roma)

[4] 土谷, 2014, P.62

[5] 岩谷, 2011, P.1

[6] 唐澤, 2008, P.2

[7] 土谷, 2014, P.66

[8] スウェーデンの今, 佐藤吉宗
(http://blog.goo.ne.jp/yoshi_swe/e/bf00e2a2994a418768384ab4460a90a5)

[9] 土谷, 2014, P.63

[10] 土谷, 2014, P.63-64


参考文献

―文献―

岩谷彩子. “ディアスポラになりきれない人々.” 日本文化人類学会研究大会発表要旨集 2011.0 (2011): 103-103.

唐澤佑子. “リトアニアにおけるジプシーへの眼差しに関する人類学的一考察.” (2008).

小林浩二. “書評 加賀美雅弘編著:「ジプシー」 と呼ばれた人々–東ヨーロッパ・ロマ民族の過去と現在.” 地理学評論 78.14 (2005): 1000-1002.

土谷岳史. “「ノマド」 という罪: EU シティズンシップのポリシング.” 高崎経済大学論集 56.4 (2014): 59-73.

―WEBページ―

スウェーデンの今、佐藤吉宗
(http://blog.goo.ne.jp/yoshi_swe/e/bf00e2a2994a418768384ab4460a90a5)、閲覧日: 2016年3月30日

Estimates on Roma population in European countries, Council of Europ
(http://www.coe.int/en/web/portal/roma), 閲覧日: 2016年3月30日

―ドキュメンタリー―

The Struggle for Survival of the Roma People: Europe’s Most Hated, VICE News (2014)
(https://www.youtube.com/watch?v=ALdlphTYdi4 ), 閲覧日: 2016年3月29日