デンマークの男女平等の秘密:オーフス・女性博物館へのインタビュー

<タイトル:デンマークの男女平等の秘密:オーフス・女性博物館へのインタビュー>

熊谷佐和子
2018年5月28日

はじめに

 

デンマークをはじめとする北欧諸国に対して、男女平等な社会というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。実際に私もそのようなイメージを持っており、デンマークがどのようにして男女平等を達成したのかに興味を持ったことがデンマークを留学先に選んだ理由の一つでもあります。デンマークの男女平等さを裏付けるデータの一つとして、OECDが発表している「雇用アウトルック2017」[1]では、男女の収入格差はOECD平均の39.0%に対して、デンマークは24.1%、日本は57.7%であり、日本と比較してかなり労働市場における男女格差が小さいことが読み取れます。
統計的にはデンマークは国際的に見てもかなりジェンダーギャップの小さい国だとがわかりますが、実際デンマークで仕事や子育てをしている人々はどう感じているのでしょうか?それを明らかにするため、デンマーク在住の女性にインタビューをしてきました。

インタビュー

 

デンマーク第二の都市・オーフスにある女性博物館(Kvindemusset)には、デンマークにおけるジェンダーの歴史・実際に性転換をした人の声・来館者がジェンダーについて考えられるような体験設備があります。今回は同博物館の職員である、Julie Rokkjaer Birchさんにデンマークにおけるジェンダーギャップの現状についてインタビューしてきました。以下、インタビュアーの熊谷とJulieさんの会話形式で記します。(S:熊谷、J:Julieさん)

 

 

S: 世界経済フォーラム(World Economic Forum)が発表している世界ジェンダーギャップレポート(Global Gender Gap Report)の2017年版[2]では、デンマークは144か国中14位と、国際的に見ても、また日本の114位と比較しても、ジェンダーギャップの小さい国であることが分かります。デンマークがこのように男女平等を達成できたことの背景には、福祉制度、あるいは社会規範が影響しているのでしょうか?

 

J: 私の考えでは、福祉制度は男女平等、すなわち女性が労働市場に参入した結果生まれたものだと思います。デンマークでは19世紀、1849年に最初の憲法が発布され、私たちはそれを「最初の民主主義」とみなしています。実際にはその憲法は、30歳以上の男性(国民のうち14%)の選挙権を認めるという、男性だけが対象の民主主義でした。憲法発布の翌年である1850年にマチルダという20歳前後の若い女性が、男女の不平等に関する本を書き、彼女がどれだけそれが不公平であると感じたかを書き綴りました。1900年代には男女平等に関係するたくさんの運動が起こり、女性たちは自身の選挙権のために闘い、その結果1915年に、デンマークでついに女性参政権が認められました。当時イギリスや他の北欧諸国などでも同じような動きがありました。デンマークでの運動も世界的な波の一つでしたが、1915年にデンマークの民主主義が確立されたのだと私は思っています。そこから徐々に女性たちが政治に深く関わるようになり、60年代になるとまた新しい動きがありました。50年代はほとんどの女性が専業主婦でしたが、60年代になると女性も外で働くようになりました。それに伴い、家庭外で働くことと母親として家庭内労働をすることの軋轢が生じ、68~69年に平等な権利を求める女性たちの反乱運動が始まりました。この運動が功を奏し、70年代には男女同一賃金、育児休暇、中絶自由化、避妊薬の使用許可等に関する法律が次々と制定され、女性たちの自由が認められるようになった、という歴史的背景が今日のデンマークの男女平等の基盤になっているのだと思います。

 

S: 女性たちが民主主義的に自分たちの権利を獲得していったという歴史が、現在の男女平等につながっているんですね。デンマークは国際的に見れば男女平等ですが、先ほど言及したジェンダーギャップレポートでは1位から4位を順にアイスランド、ノルウェー、フィンランド、スウェーデンが独占しているように、他の北欧諸国と比較すると少し出遅れていることがわかります。その原因には何でしょうか?

 

J: 他の北欧諸国では割り当て制の父親の育児休暇を実施しているのが要因だと思います。デンマークでは主に女性が育児休暇を取得していて、それが女性たちのキャリア形成や賃金アップを妨げているのが現状です。この状況を踏まえて、男性育児休暇の推進や、子供は男性・女性の共同の責任の下で育てるべき、という考えに賛同します。なぜならば、先ほど言及したジェンダーギャップレポートの発行元・世界経済フォーラムは、もし私たちが組織や政治レベルで何か行動しなければ、男女平等を達成するまでに約81年かかると指摘しておいるからです。今の状況を解決するには何かアクションが必要です。その一つとして、男性育児休暇にポテンシャルを感じています。

 

S:男性育児休暇が今後のデンマークのジェンダーギャップを縮める鍵なんですね。今まで主に職場でのジェンダーギャップについてお話してきましたが、教育制度や教育機会においても男女間に格差があるのでしょうか?

 

J: 現在では、高校や大学の学生は女性が多いですが、教授や博士については大半が男性です。これは政治についても言えることですが、社会における力という意味では女性は弱いままです。その背景には「女性は家で子供と一緒にいたいから、社会で力を持ちたいと思っていない」という主張があります。これと同じような議論が1915年の女性選挙権運動の時にもあり、「女性は投票したいなんて思っていない」「女性は子供と一緒に家にいたいとしか思っていない」「女性は頭を使いたいと思っていない」というのが当時権力を握っていた男性政治家の論調でした。

 

S:完全な男女平等が達成されていない要因に、そのようなステレオタイプ的な性規範があるのですね。性規範に関連して、日本ではテレビや雑誌、広告などのマスメディアが理想の男性像・女性像を作り上げているように感じるのですが、デンマークにおいてもそのような性別表現は見られるのでしょうか?

 

J: はい。CMなどはとても一般的・二分的な性別を描いています。例えば、完璧な女性は痩せていて、金髪で、胸が大きくて、肌がきれいで…、完璧な男性は筋肉質で…といった具合で、多様性に反しています。一方でユニリーバのブランド・Doveのように、他の人とは違う、自分の体を大切にしよう、という運動を行っている企業もありますが、多くの場合は型にはまったジェンダー像を描いています。それと、メディアに登場するのは決まって白人で、人種の多様性への配慮も欠落しているように感じます。

 

S: デンマークのメディアでもそのような性別の描かれ方がされているんですね。最近世界的にmetoo運動(SNSで#metooというハッシュタグをつけて自信のセクハラ被害体験をシェアする運動)が広まっていますが、デンマークでもそういった動きはあるのでしょうか?またそれに対しての社会の反応はどういったものなのでしょうか?

 

J: Metoo運動に関しては、デンマークはほかの国に比べると俳優やアーティストがこの運動に参加しだすのが遅かったのですが、活発な議論がなされています。特に男性が「もううんざりだよ」と口にしているのが目立ちます。女性の間でも賛否両論に分かれていて、私の周りの女性たちが「自然な恋愛関係まで壊さないように気をつけないといけない」などと言っているのを多く耳にします。

 

S:最後に、Julieさん自身も双子のお子さんの母でありながら、外でも働いているという立場ということで、現在のデンマークにおけるジェンダーギャップについて体感としてどう思っているか教えていただければ幸いです。

 

J: 私自身はデンマークに住んでいてとても幸運だと感じていますが、デンマークは仕事の面においてはジェンダーへの偏見が強く残っています。例えば、民間セクターで働いているのはほとんど男性であるのに対し、看護師、教師、行政機関などの公共セクターは女性が多いのが現状で、これが賃金率にも影響しています。また、デンマークは子育てに関して言うと平等ではありません。前述したように、母親は育児休暇のほとんどを消化しており、キャリア形成や賃金率に響いています。さらに、日常的なセクシズム(性差別)もたくさん蔓延っています。

 

Julieさんへのインタビューを通じて、デンマークは日本を含む諸外国と比較するとジェンダーギャップが小さい一方で、未だに労働市場や政治・家庭における男女格差があり、それが社会やメディアにおける性規範にも表れていることが分かりました。

 

参考文献

[1] OECD (2017) ”OECD Employment Outlook 2017.”
http://www.oecd.org/els/oecd-employment-outlook-19991266.htm (最終閲覧日2018年5月28日)

 

[2] World Economic Forum (2017) “Global Gender Gap Report.” https://www.weforum.org/reports/the-global-gender-gap-report-2017 (最終閲覧日2018年5月28日)