EUに関する国民投票について(インタビュー5)

昨日、反対53%賛成47%という結果で国民投票が終わりました。最後のインタビュー記事となりますが、社会民主党の政治家Mette Reissmann (メッテ・ライスマン)さんにお話を聞かせていただきました。

反対派の意見はこちらから、国民投票の概要はこちらの記事をご参照ください。

以下会話形式で記述いたします。

(宮崎:A, Mette:M)

 

A: 国民投票の結果によって、どのような影響があるのでしょうか。

M: 今回の投票は、欧州刑事警察機構(ユーロポール)と他の22の法枠組みへの参加が問われています。デンマークは、司法内務協力分野において、加盟国同士の国家間協力からEUに主権を預け一つの機関として行動する超国家間協力へ段階が上がる際に国民投票で可決されないと参加することができません。賛成が勝ちユーロポールへ参加継続ができれば、デンマークもEUの政策決定のテーブルにつくことができます。反対は完全に決定の場にいなくなることになる、という影響があります。

 

A: 反対派はユーロポールの加盟国でなくなったとしても他の協定を結ぶことが可能だといっていますがどう考えていますか。

M: その反対派の情報は誤解を招くものだと思います。締結には多くの年月がかかりますし、EUの委員会は各国が例外を持ち異なる協定を結ぶことに反対しているため、困難な道のりになると思います。

 

A: 反対派は今後国民投票ではなく将来的に議会がEUへの主権の委譲を行うことにも危機感を抱いています。

M: この主張に関して私は2つの反論があります。まず、EUへの主権の委譲を議会が自由にすることはありえません。なぜなら委譲する際には国民投票をすることが憲法に書かれているからです。しかし同時に、デンマークがEUで共通のルールを作るときに毎回国民投票をすべきとも思いません。1回の国民投票にいくらかかるか知っていますか?1.6億デンマーククローナ(約32億円)です。毎回投票を行うお金はデンマークにはありませんし、議会の決定が気に入らないのであれば選挙で違う候補者に票を入れればよいのです。それが民主主義だと思います。また毎回国民投票をやっていれば国民は疲れ投票率は下がるでしょう。

 

次に、EUの権限が大きくなることでデンマークとしてのアイデンティティが失われることへの不安の声があります。しかし、デンマーク国民であること、EU市民であることは両立します。そして、デンマーク国民がデンマークにより自分のアイデンティティを感じ続けることは言うまでもありませんし、EUとの協力が強くなることがそれを変えるとも思いません。

 

A: 今回の国民投票が賛成になると承認される22の項目はどのようなものなのですか。

M: 現在デンマークは、50項目のEU法の枠組みに参加していません。今回参加することになる22項目は、国民の生活をより便利にするために必要なものです。国際結婚、国を超えたビジネスでトラブルが起きた時に誰がどの法で裁くのかのルールが作られることは、すでに国境を越えて暮らしている国民に利益をもたらすと思います。

 

A: EUとデンマークの関係についてどう思いますか。

M: 1972年にデンマークがECに加盟したことはとても良い選択だったと思います。デンマークは560万人の国民しかいない小国ですので、周りの国との協力が必要です。また、EUはデンマークにとっての最大の市場でもあります。たとえば、デンマークの輸出先の80%はドイツですし、多くのドイツ人は休暇でデンマークを訪れます。私たちは日々の生活の中でEUの国々と密接に関わっています。一方で、現在のEUは28か国の加盟国を抱え、国によって文化も福祉も経済の水準も違い、移民や犯罪の増加など様々な問題が出てきたことも事実です。

 

しかし、デンマークがEU諸国との協力をせずに豊かさを維持できないことは明白です。よく反EU派の人が「ノルウェーはEUにいなくても上手くやっているじゃないか」といいます。しかしノルウェーは油田のある豊かな国で、デンマークよりもはるかに高いGDP成長率を有しています。デンマークはEUとの共通の市場を有し、国境を開きヒト・モノ・サービスの自由な移動を受け入れていることで、豊かでいることができているのです。南欧の国々の財政危機で迷惑を被ったと同時に、南欧に日々チーズや牛乳を大量に輸出できていることを忘れてはいけません。

 

A: 難民問題は国民投票にどのような影響を与えていると思いますか。

M: 難民問題の深刻化が反EUの声を高め大きな影響を与えています。しかし、今回の国民投票によって決まる難民問題の政策はなにもありません。

 

難民の受け入れは、人としてのあり方、とるべき行動が問われる問題です。一方で、私は全員を受け入れるべきだという理想主義的な考え方をしているわけではありません。デンマークで生活することになる難民は、人権を享受し社会に貢献しなくてはいけません。そのためには、教育を受けデンマーク語を喋り、デンマークの文化を受け入れなくてはいけません。それを提供できるだけの人数を段階的に受け入れていくことが必要です。この問題は、デンマーク一国では解決できませんしEUの加盟国はどの国も加盟国としての責任を果たす必要があります。しかし繰り返しますが、今回の国民投票は難民受け入れを広げるものでも、食い止めるものでもありません。

 

A: 反対派の人々に対して、賛成の主張を理解してもらうにはどのような説明が必要ですか。

M: まず政治家は、EUに対して不安感を持つ国民と対話する際、国民が不安を抱えていることを理解し、真剣に受け止めることが重要です。不安な気持ちを持つな、不安なことは何もない、といっても意味がありません。学生や高所得者はEUの恩恵を受けていますが、低賃金労働者は移民が入ってきて自分たちの職が奪われることを目にしています。そこですべき説明は、EUから離れれば今の状況はさらに悪くなるということです。EUの市場がなければ輸出数は低下し賃金はより下がり職は減ります。私はこのようなソーシャルダンピングを防ぐこと、持続的な成長を支えること、平等な条件の雇用環境を作るためにあらゆる努力をすることを約束しています。また、そもそも国境を開いているから犯罪が増えるのだと不安を抱える人たちがいます。その人たちには、EUと協力してユーロポールに参加していなければそれを捕まえることもできないと説明します。

 

そしてさらに重要なことは対話を重ねることです。説明したその日は安心したとしても次の日にはまた不安になるでしょう。何度も何度も対話を重ね、少しずつ納得してもらうことができるのです。国民投票の2週間前は国会が休みになり、議員は各地に説明をしに行きます。投票の日が近づけば近づくほどデマや不確かな情報が流れ人々は混乱するでしょう。ぜひどのように投票運動が行われているのかを観察してみてくださいね。

以上

 

開票終了直後のインタビューでラスムセン首相も「今回の投票は、国民が一度立ち止まり考え議論をできたとても重要な機会だった」と話していましたが、今回の国民投票のインタビューを行う中で私が最も感銘を受けたことは政治家が国民を巻き込み議論を喚起させていることです。大学に首相がきて学生と意見交換を行ったり、留学生であっても政治家に実際に会い話を聞く機会を得ることができたり、ユース団体に所属する学生が積極的な投票運動を行っていたり、自分と同世代の若者の政治参加にも驚かされました。

 

今後は、今回の国民投票の結果からデンマークやEUはどこへ向かっていくのかの分析をしていきたいと思います。