EUに関する国民投票について

2015年12月3日、デンマークで国民投票が行われます。町の中でも”Ikke mere EU. NEJ!”(EUはこれ以上いらない。NO!)や、”Hjælp politiet stem JA” (YESの投票で政治を助けよう)と否決/可決を呼びかける様々なポスターを見かけるようになりました。日本では憲法改正時に国民投票を行うことが定められているものの、過去行われたことはなく馴染みがありませんね。しかし、デンマークでは頻繁に行われていて、憲法で主権を他の機関に委譲する際に行うことが定められているため、EUとの関係が強化される際には毎回行われているのです。EUについて決める国民投票としては9回目となる今回の投票がなぜ重要なのでしょうか。

 

これまでのデンマークとEUの距離感を見直す点でこの投票は重要な意味があります。デンマークで生活する方、あるいは旅行した方は他のEU国と違いユーロではなくデンマーククローネという通貨が使われているのをご存知かと思います。ハートや王冠がついているかわいい通貨ですが、実はこれを使っているのも国民投票の結果によるものです。2000年にユーロ導入に関する国民投票が行われ否決され、導入しないことが決定されました。ユーロ以外にも国民投票の結果によって4つの例外をEUから獲得してきました。それが、欧州市民権を限定的に導入すること、共通経済政策に縛られず単一通貨も導入しないこと、共通防衛政策、司法内務協力に参加しない権利です。

 

そもそも何故この4つの例外をデンマークは望んだのでしょうか。1992年のマーストリヒト条約(EU条約)に遡ります。ECからEUへと発展し、政治・経済などより広い分野での欧州統合を進めていく条約でした。その際もデンマークは国民投票を行い否決されます。国民がこの条約を否決した理由として、統合が進むことにより小国の声が届かず政治を自らの意思で決める幅が狭まること、福祉や経済で高い水準にあるデンマークにとっては利益を享受するより、他国に対し犠牲を払うことへの懸念があったのです。それまで国民投票は、市民の声が届いているのかがわかりづらいEUにとって、正統性やEUの政治に対する信頼の根拠づけをする、諮問的な役割と見なされていました。それだけに想定外の否決は、「デンマークショック」と言われ大きな衝撃をEU全体に与えました。EU条約は全加盟国の参加なしに発効できないため、EUは妥協案としてデンマークに対して例外を設けることとなったのです。

 

この1992年の国民投票は、2つの点で「ショック」なものでした。一つは、EUの統合に対する市民の不安感が露呈したことです。これまで加盟国を拡大し、協力分野を広げてきたEUに対して疑問を投げかけたのです。デンマークでの否決に続くようにして、フランスでもEU条約加盟についての国民投票が行われ否決され、欧州全体に統合に対する否定的な雰囲気が漂いました。結果として、EU憲法は頓挫し、市民が懸念する主権移譲に対して慎重な姿勢をとるようにEUは姿勢を変えることとなりました。二つ目は、政治家と市民の考え方や認識の差が明らかになったことです。デンマーク議会はEU条約について参加を決めていたのに対し国民投票では否決の結果となりました。政治関係者と市民の考えのずれは現在の欧州にとっても最も大きな問題の一つとなっています。欧州議会でのEU反対派の議席が増加したこと、デンマークも含め各国で移民・EU反対政党が支持を拡大していることはずれの広がりを示していると言えます。

 

このように今回の国民投票の結果からデンマークのEUとの姿勢、政府と国民のEUに対する考え方を明らかになる点で注目が集まります。大きくなる移民問題に対処すべく協力を強めるEUの警察や司法協力に、デンマークも参加していくのか?EUと足並みをそろえる国へと変化していくのか?これらの問題をデンマークの政治家・国民・メディアがどのように捉えているのかインタビューやレポートを通じてお伝えしていきたいと思います。

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