デンマーク郵便事業の危機

デンマークとスウェーデンの通信・運輸業を司っているPost Nord社は2016年の決算で15億クローネにも及ぶ赤字を報告し、政治家たちが2月22日に緊急会議を招集する事態になった。国有企業である同社は、所轄の大臣が社を代表することとなり、救済策を提示することが求められる。そのため、所轄する運輸・建設・住宅省のオーレ・ビアク・オーレセン大臣は、大きな課題を突き付けられている。

PostNordは2009年に株式会社デンマーク郵便と、スウェーデンの有限責任公社ポステンが合併して作られた持ち株会社であり、親会社としてスウェーデン有限責任公社Post Nordが設置され、本社はスウェーデンのソルナに置かれている。デンマークが40%、スウェーデンが60%の株式を所有するものの、意思決定に関しては両国が対等な権利を有す。子会社として、PostNord Danmark、Posten AB、Strålforsが事業活動にあたっている。従業員数は合計して33278人(2016年)で、5年前には総従業員数は4万人を超えていたが、かなり厳しい人員削減を行ってきた。デンマーク国内の従業員数は1万人程度である。すでにデンマークでも1万人のうちの1000人ほどの人員解雇が予定されているが、それだけではもちろん十分ではない。

スウェーデンだけでの決算では6億4600万デンマーククローネ黒字だったにもかかわらず、デンマークの決算の赤字が15億クローネにも及んだため、合計で7億8000万クローネの決算となっている。スウェーデンの産業大臣は、同事業におけるデンマークとの決別の可能性も否定しないといっているほか、産業大臣のミカエル・ダムベア大臣もデンマークの赤字がスウェーデンの郵便事業に影響することを警戒している。コペンハーゲン商科大学の会計の専門家、ライフ・クリステンセン教授は、15億クローネの赤字というのは資本金を超えており、「単独で行っていた企業であれば倒産状況」、と事の深刻さを説明している。

スウェーデンでは公的機関から連絡を受けるとき、電子媒体で受け取るか、実際の郵便物として受け取るかを選択できるのに対し、デンマークでは2014年以降、一斉に電子媒体で受け取るようにと決定し、郵便物の数自体が減ったことも大きな理由の一つといわれる。2月17日に出された郵便物の総計では、直近の四半期で比較した場合、デンマークでの総数が23%減少したのに対し、スウェーデンでは7%の減少にとどまり、総数としてスウェーデンの郵便物の数はデンマークの5倍にもなっている。

デンマークでの郵便物総数は1999年に最大を迎え、年間15億通を数えたが、それからは減少の一途をたどり、2015年までに70%も落ちている。中でも、A郵便と呼ばれる翌日配達される優先順位の高い郵便物は、90%も減少した。この翌日配達郵便の価格は近年劇的な値上げを繰り返しており、2015年には10クローネから19クローネに値上げされ、2016年7月にはA郵便B郵便に代わって、普通郵便と速達便の分類に変更され、これまでのA郵便が行っていた翌日配達は速達郵便とされ、26クローネに値上げされた。それ以降、「普通郵便」とされた郵便物の配達条件は、国内であっても5日以内の配達になった。すでに、「サービスを低下させて、郵便料金を上げる」という改善策がすでに使えないところまで切り詰められているといえる。

救済策として、増資も一つの可能性ではあるものの、自由連盟党の郵便スポークスマンのヴィルム・クリステンセンは、国民の税金をさらに投入しての事業再建には懐疑的である。将来的には民営化も一案ではあるものの、すぐに実現に移すのは難しい現実がある。というのは、デンマークの従業員約1万人のうち約3分の1を占める3200人がいまだに公務員契約の下に雇用されており、公務員を解雇する場合には3年分の給与補償と生涯の厚生年金の支払いが求められるため、一人当たり最低でも150万クローネ、合計50億クローネを超える税金がさらにそれに充てられる必要があるためである。これらは、郵便事業という重要なインフラを担うため、当時国のほうでストライキに加わらない労働者を確保する目的で提示した条件であるが、今になってそれが首を絞めている。

この公務員契約の下にある従業員は退職等で次第に減っていくため、それで条件的にペイするようになった数年後に民営化するのがいいだろうというのが、自由連盟党のビジネススポークスマンのヨアキム・B・オールセンの見方である。オールセンは、それには現在宅配サービスをしている企業が民営化後には請け負うのが妥当だろうとみるが、社会民主党のクリスチャン・ラベア・マッセンは、そもそも引き継ぎたいと手を挙げる企業があるかに疑問を呈す。郵便事業に関しては統一の配達義務が課されているため、国内全土で同じ料金、日数内に配達するという条件をクリアする必要が出てくるためである。

議論も熱をおびてきているが、さらに2月22日になって、デンマーク企業連盟のヤコブ・チーテはPostNordの赤字が郵便配達部門よりもそれ以外の部門からくる赤字多くを占めるものだと指摘している。PostNordは北欧の運送業界での成功を獲得しようと、物品、広告、洗濯物や食事の配達といった郵便以外の事業に手を出し、それが赤字を産んでいることが原因の84%(2015年)であり、4400万クローネに過ぎない郵便事業の赤字は原因の4分の1に過ぎないという指摘である。

オーレ・ビアク・オールセン大臣は、ミーティング前のコメントは出しておらず、PostNordからもは2月22日16時の時点でPostNordからのコメントは取れていないが、何はともあれ抜本的な改革による企業再建が求められることは確実である。

(執筆:鈴木優美)

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